大工集団 欅(けやき)

新築病『シックハウス症候群』
  〜ホルムアルデヒド(HCHO)について〜

 最近、よく新聞ニュース等で耳にする「ホルムアルデヒド」。このカタカナを見ただけでピンとくる方もおいでると思うが、「シックハウス症候群」を引き起こす原因といわれる木質建材用の接着剤、と言えばより多くの方に思い浮かべてもらえるのではないかと思います。

 この「ホルムアルデヒド」、一体何かと言うと内装材、例えばクロス(壁紙)やフロアーを貼る接着剤の中に入っている酸素を含む最も単純な有機化合物で刺激臭のある無色の気体の事です。ホルムアルデヒドはそれを含む接着剤が乾く段階、つまり接着する課程で空気中に放散され、人体にも影響を与えています。めまいや吐き気をもよおす「シックハウス症候群」を訴える消費者が増え、最近特にマスコミ等が取り上げるようになりました。ではなぜそれらの接着剤にホルムアルデヒドが必要なのでしょうか。

 接着剤はすべてがすぐに接着すれば良いというものではありません。それぞれの仕事により、作業に適した接着(硬化)の速度があるのです。またその作業方法も様々で、例えば合板を作成する時に使用する接着剤の場合はホットプレスという作業用機械で熱と圧力により接着させます。つまり、ある程度の熱とある程度の圧力を加える事により硬化する接着剤を使用しているのです。またクロスやフロアーを貼る時の接着剤は、ある一定の時間をかける事だけにより接着させます。ホルムアルデヒドは、接着剤中の含有量を変える事により、それらの異なる硬化時間を丁度良い速度に調節する事が出来る最も安価な方法なのです。


 〈気中濃度(ppm)〉     〈知覚状況〉
    0.2 → 臭気を感じるが、すぐになれて感じなくなる
    0.5 → 明らかに臭気を感じる
    1〜2 → 不快感(目・鼻の刺激)が起こる
    3〜4 → 刺激による苦痛を覚える
   5〜10 → 目・鼻・のどに強い刺激。短時間耐えられる限度
   10〜20 → 涙・せきが出る。深い呼吸が困難になる
  50〜100 → 5〜10分で深部気道障害を招く


 現在特に問題なのは住宅です。新しいマンション等へ移ってかかる新築病「シックハウス症候群」です。頭が痛くなったり、目が真っ赤になったり、吐き気がしたりと、前の家に住んでいた時には無かった症状が新しい家に移ってから急に出ることがあります。特にマンションは気密性がよい為、気体になったホルムアルデヒドが空気中によどんでしまうのです。中にはクロス(壁紙)等を全てはがしてしまった人もいます。そこで住宅メーカーでも、ホルムアルデヒドを含まない接着剤を使用してクロス・フロアーを貼ったり、換気口を増やしたり、合板(ベニヤ)を使用しないでその代わりに石膏ボードを使用するなどといった対策を急きょやりはじめています。

 でもその対応も長い目で見た場合、はたして本当に良いのかは首をかしげてしまう。例えば新聞に書いてありましたが、押入の中を合板を使わずボード貼りにするという。当然合板に比べたらボードのほうが耐久性が少ない。それに合板の場合は多少の湿気を吸ってくれるが、湿気の多い押入の中でボードはどうでしょうか。すぐにカビが生えることでしょう。

 また、クロスやフロアーを貼るのにホルムアルデヒドの入っていない接着剤を使ったとしても、もしフロアー自体が合板を使用していたらどうでしょう。またその家の人が購入した家具・テーブル・イス等から空気中にホルムアルデヒドが放散される場合もあります。一体それらをどこまで防ぐ事が出来るのでしょうか。

 現在、ホルムアルデヒドを含まない、あるいは含有量の少ない接着剤の価格はとても高価です。しかし、新聞によるとマンションメーカーは「企業努力によりマンション価格は上げない」という。ただでさえコストを押さえられているマンションの仕事に、価格のはる接着剤を使用するという事は、さらに下請業者の負担を増やす事になるのではないだろうか。しわ寄せはいつも下請けなのです。

 合板に関しては規格を見直す対策を始めています。今までの規格をワンランク厳しくし、どの合板メーカーでもF1(無臭)ベニヤでの対応が出来るようになって来ています。F1とは合板協会(JAS基準)が定めるホルムアルデヒドに関する基準の中で一番上のランクの物です。 しかし無臭ベニヤと普通ベニヤの併用ができない為(無臭ベニヤはホルムアルデヒドを吸ってしまう)、メーカーでの生産が可能でも、受け入れ側の問屋、工務店、工事現場等の対応がなかなか難しいようです。


〜気中のホルムアルデヒドの対応策〜

 とにかくまめに窓を開けて、換気を行うのが一番です。また、換気装置を多く取り付けるのも良いと思うのですが、熱も出てしまいますから熱交換型にすると良いでしょう。

 「シックハウス症候群」の問題が特に大きく取り上げられたのは最近の事ですが、ホルムアルデヒドを使用しはじめたのは何も最近の事ではないのです。以前から使用していたのですが、これ程問題にならなかったのは日本の住宅の気密性の変化によるところが大きいのです。つまり、古くからある日本の住宅はどちらかというと隙間だらけで風通しが良かったが、現在の住宅は気密性が良く風も通らないためなのです。また、共働きなどで昼間は一日中家を締め切っている家庭が増えた事にもよるのです。

 最近では室内のホルムアルデヒドを取り除く事を専門にした業者も出て来ています。彼らの方法は、ある程度室内を暖める事によりホルムアルデヒドをより多く気体化させ、放散させて強制換気を行います。

 一般にまめに換気を行えば、4ヶ月から半年でほどんど無くなってしまいます。


〜最後に天然のホルムアルデヒドについて少し書きます〜

 天然木材や多くの食品の中にも、天然成分としてホルムアルデヒドが含まれています。しかし、天然のホルムアルデヒドは人の健康を損なう恐れはない、と厚生省は考えているようです。

 はたして、天然と人工とではどの様に違うのでしょうか。下記に天然のホルムアルデヒドの含有量(ppm)を書きます。

    〈食品〉       〈ホルムアルデヒド含有量(ppm)
  果実(リンゴ、なし類)      2〜8
  キュウリ              2.3〜3.7
  鳥獣肉類             0.5〜0.6
  魚類                6 〜14
  薫製品               3 〜90
  タラ                30
  冷凍タラ(背肉)         21
  冷凍タラ(白身)         4.6
  エビ                2.4
  ヤリイカ              1.8
  生シイタケ            6〜24
  乾燥シイタケ         100〜230
  その他キノコ類         8〜20




 ご覧の通り、天然のホルムアルデヒド含有量(ppm)は人工ホルムアルデヒド気中濃度(ppm)よりも高い物が多くあります。乾燥シイタケに至っては100〜230ppmもあるのに、皆さんもご存じの通り食品学では高い評価を受けている食品です。
  
建築業に戻る