を創った訳
 戦後の高度成長に伴い住宅の建築ラッシュが続きました。その時に新建材なるものが多く開発されました。 施工の手間を無くし、安く・早く建築することの出来る新建材はその後の我が国の建物と文化・人間性までをも大きく変えました。 当時の経済的なことを考えれば画期的なことでした。 しかしその後、新建材が一人歩きし建築部材のほとんどが新建材になるような変化をするとは誰も思ってはいなかったでしょう。 今の新建材を簡単に言えば偽物です。 近年では新建材を使った家が当たり前になりました。 その為に、日本人の美の意識すらも変わってしまいました。 本物を見分ける眼力が無くなりました。 自然が作り出した木目を美しいと感じず、ビニールに印刷したクロスの模様を綺麗だと思うような美意識しかなくなってしまった原因はここにあります。 和室が少なくなったのは生活習慣の変化によりますが、和室天井材の板の殆どがプリント材、つまり紙に木目を印刷した物なのはいただけません。 施主には印刷物だと見抜く眼力すら無くなっています。 尤もプロである建築に携わっている人ですら、漆喰とプラスターや白セメントとの区別がつかなくなってしまいました。 
 素材の持つ機能は全て忘れられ、簡易な施工が求められるようになりました。 自然素材の機能には驚くべきものがあります。例えば断熱材ですが、人間が造りだした断熱材は多くありますが、全てが結露をします。 結露しない素材は木しかないのです。 近年、自然素材が見直されてきました。 しかし、それらを作っているメーカーや建築業者が宣伝している自然素材は真の自然素材なのでしょうか。 例えば珪藻土。 多くの建築に使われている珪藻土の中には人工の糊・色粉が含まれています。 珪藻土の含有率は30%ほどにしか過ぎません。 それでも自然素材として宣伝し、売られ、使われているのです。 つまり、素材の機能を知らずに使っているのが現状ではないでしょうか。 素材その物が持っている性質・機能を活かした使い方が面倒で施工時間がかかるから新建材になり、今では大切な素材の性質・機能を知る人が少なくなってしまいました。 そして美意識までもが変わってしまったのです。
これは、ワ・タ・シです!?
この木彫りの仕草が
私に似ているそうです。
 木についても大きな変化があります。 木は自然が作った物ですから、同じ樹種でも一本一本が違う性格を持っています。 ましてや樹種が違うと全く別の素材と言ってもいいくらいに性格が違います。 昔の匠(大工達)はその性格を活かして使ったものですが、近年ではそれらを考えていない建築が多く見られます。 先日、友人が住宅会社の展示場へ行ったら敷居が杢目で納まっていたので係の人に尋ねたら、「木です」とだけ言われたそうです。 敷居は建具がスライドするので柾目にて納めるのが常識であり、この様な事が多く見られるのは残念なことです。  

 木については多くのお話ししたいことがあります。 その一つは地球環境についてです。 最近になって地球規模の公害がじわじわと確実に進んできています。 さまざまな形でとりざたされている地球環境問題は、その原因と被害が地球全体規模で国という枠組みをこえ、複雑にからみあいながら、有効な解決策がないまま、未来への不安を増大させています。 これまでの環境問題とはまったく異なる地球規模の公害なのです。 私たちにはこのことを考えずして未来はありません。そこで先年のブラジルサミットからの問題を整理しつつ私たちの仕事である木材との関係を見つめてみました。 このホームページを作成するにあたり自分たちの経済活動、個人のライフスタイル等を考えると、個人レベルで出来ることも数多くあり、おのおのの人が利他の心をもって生きてゆかねばならないと考えました。 しかし一方、私たちも生きていく上で一定の経済活動もしなければなりません。 そこでもっとも環境負荷の少ない産業資材、材料として木材があがってきたのです。 木材は今の地球環境においてもっともすぐれた素材なのです。    

 最近住宅産業界で話題を集めているのは、「健康住宅」です。それは新築の家に引越したら、目がチカチカしたり、新建材や塗料、接着剤の匂いで不快な感じになり、ついに体調を崩したりするという話です。 つまり家そのものが病気の原因になるというので「シックハウス症候群」と呼ばれています。 これについてはたびたび報道されているので、すでにご承知の通りです。 シックハウスは接着剤によって起こるとされましたが、近年では新建材の中に一部使用されている物質そのものが問題であるとの研究結果も出ています。 木には勿論その様な心配はありません。 

 商売がら、新築の家をみる機会が多くあります。 その時に必ずと言っていい程「良い家でしょう!」と言われるのですが、いつも返事に困ってしまいます。 実際どのような家が良い家なのかは人それぞれ好みも価値観も違うので、何と答えたらいいのか判らないのです。 設計が良い、外見が良い、内装が良い、使い勝手が良い、面積が広い、などいろいろな捉え方があるはずです。 間違いなく言えるのは、すべてをクリアーしている家は素晴らしい家である。が、そうはお目にかかれません。 木・木材に携わっている者としては、どうしても「良い家」と言うと、ふんだんに木を使っている家を思い浮かべてしまいます。 それは、お金をかけた高級木材に限らず、安い木材であっても、木を多く使っている家は心が安らぐように思うからです。 確かにお金をかけて高級材を多く使った方がいいに決まっています。しかし、使える人はそうはいません。 仮に中級品以下の材料であっても、材料をふんだんに使い、その家、その部屋の雰囲気に合った使い方をしている家は、お金をかけたかけないの問題ではなく、とても素晴らしい家だと思います。 

 最近、日本の住宅を見ていて一つ疑問に思う事があります。 床に関しては、みなさん木質のフロアーにこだわっている様ですが、壁・天井に関しては、石こうボード下地にクロス貼り、と言うのが定説のようになっています。 なぜ、壁・天井には木質材を使わないのでしょうか。 たしかに内装制限(※)などの規制もうるさくはなっていますが、不思議です。確かにクロスに比べれば、壁に板材や化粧合板などを貼るのには手間がかかりますが、長い目でみればやはり長持ちするし、味も出てきます。 10年〜15年前の住宅にはいろいろな所に使っていたのですが、最近の住宅ではほとんど木製品を内装材として使われなくなりました。 そのかわりに塩化ビニール(塩ビ)、プリント、メラミン、ポリ合板など同じ模様が何千、何万と生産できるものに代わってきています。 木目が揃わない、色が違うなど、施主からのクレームが少ないからです。 それに最近のものはとても精巧に出来ており、表面にエンボス加工(凹凸)など施してあると、木目調の製品などは我々でも見分けのつかない事があります。 また、施主の方に「この柱や内装材、無節で色が揃っているでしょう?」と言われる事がありますが、その材料が実は塩ビやプリントである事があります。 しかし施主の方がムクの木材と信じているところで「違いますよ」とは面と向かって言えず、ニコニコ笑って頷くしかないような事もあるのです。 お客様は木材製品を工業製品と同じに考え、同じ模様、同じ色、同じ物をより安くと要求されます。 すると今の日本人のレベルでNOクレームにするのは難しくなる為、木材製品ではなく、塩ビ・プリント製品に切り替えてしまうのです。 木は人間の顔や性格と一緒で、それぞれ全て違います。例えその表面に同じ色の着色をして塗装をしたとしても、全てが微妙に違う色に仕上がってきます。 それが木の味わいなのです。木には「同じ物は2つとない」という事を多くの人が理解し、もっともっと多くの住宅で木材製品を使ってもらえるようになれば、コストも下がると思うのですが・・・。私は、早くそのような時代が来ることを待ち望んでいます。
(※内装制限…建築物の用途等により内装に不燃材を使用するよう義務づける事)

 もう一つ「良い家」の条件に、風通しの良い家、風の通り抜ける家があると思います。 そこでまず初めに、最近よく聞く「結露」について考えてみましょう。結露は室内と室外の室温差により、空気中の水分が窓などに水滴となって出来ます。 窓だけでなくマンションなどの壁面にも出来ます。 この結露の湿気は、カビなどが出来る原因の一つとも言われています。 今の住宅やマンションなどは気密性が高くなっている分、室内の空気の流れが悪くなっているのではないでしょうか。 それにプラスしてアルミ材、鉄骨材、コンクリート材、塩ビ、プリントなど、水分を吸ってくれる材が無いので少量の水分でもカビが出来てしまうのです。 たまたま先日ある研究の発表資料で、1uにいるダニの数を世界各国と比べていたのを見てぶったまげてしまった。 例えばアメリカ・カナダ・ヨーロッパが8〜10匹という数に比べ、日本は1,000匹以上という、とてつもない差があったのです。 日本の風土の湿度の高さに加え、最近の建築物の建て方にも原因があるのです。 新建材なは空気の透過性がないのです。 そのダニの死骸が空気中に舞い上がり、喘息や花粉症のアレルギーを引き起こしていることは皆さんもご承知のとおりです。 

 そんな事からも、昔の日本の住宅はとても日本の風土に合った家だったように感じます。 使い勝手は良くないが、湿気をよぶ水まわりを外や離れた所に持っていき、そして風通しが良いというより隙間だらけ、木材も塗装せずふんだんに使っていました。 私も隙間風はいやですから、それが現代でも良いのだとは思いませんが、昔の日本の住宅は風土に合った家だったのは間違いのないことで、木・土・紙・竹等の自然素材の性質や機能を熟知し使用していたからこそ、(当時では)使いやすい家だったのです。  

 昔の日本人はお金での裕福は無かったが、心の豊かさや知恵がありました。 日本には風土に合った、現代風に言う”すぐれものグッズ”があります。まず、寒い冬場に暖めてくれる「いろり」や「こたつ」。 寒い家の中で足もとを集中的に暖める「こたつ」、これほど暖房効率のよいものは他にあるでしょうか。 そして「いろり」は暖房・調理に加えその煙で燻して防虫、また柱や床などはまるで塗装をしたようなつやも出せました。一石三鳥、いや四鳥です。 夏場に”涼”を感じさせてくれる「風鈴」などもすぐれものの一つです。 ただお金を出して建てれば良いのではなく、建て方、作り方、使い方が重要なのです。 そして、他人の目で「良い」「悪い」を決めるのではなく、自分が気に入ればそれが一番いいのです。 別に型にはまった物ばかりを使う必要はありません。

 私の思う「良い家」は、例えそれが木目の揃っていないものでも、節など欠点が入っていても、耐久性に問題がなければかまわない。 木材をふんだんに使い、そして、風の通り抜ける家、そのような家は最高だと思います。 お金なんかかかっていなくても、少しづつでもそのような家の良さを理解していただける施主の方々が増えていく事を期待しています。

 長くなりましたが、私たちはそんな日本の風土にあった素材を使って建てる住宅を造りたくて『大工集団 欅』を造りました。
 
 
大工集団 欅(けやき)を造った訳
店主に似た木彫り